透析患者の骨折リスクはなぜ高い?入院や手術を避ける予防法

透析を続けている方にとって、骨折は深刻なリスクです。透析患者の大腿骨骨折の発症率は、一般の方と比べて国内データで男性6.2倍・女性4.9倍と報告されており、骨折後の手術が体への負担になるケースも少なくありません。

骨密度の低下だけでなく、骨の質の変化や透析後のふらつきなど、複数の要因が重なって骨折リスクは高まります。食事・運動・通院での注意点を押さえておくと、骨折リスクを減らすための管理につながるでしょう。

透析患者の骨折が入院・手術につながりやすい理由

透析患者の骨折が入院・手術につながりやすい理由

透析を受けている方は、一般の方と比べて骨折のリスクが高い状態です。日本腎臓学会によると、わが国の透析患者における大腿骨近位部骨折の発症率は、一般人口の約5倍に上ると報告されています。

数値の高さは、透析患者にとって骨折が他人ごとではないと示しています。腎機能の低下は、骨の健康に直接的な影響を与えるといってよいでしょう。

慢性腎臓病(CKD)は比較的早期の段階から骨折リスクが高まることが明らかになっています。骨折は、けがだけにとどまらず、入院の長期化や手術、さらには寝たきりにつながりかねません。

腎機能の低下が骨をもろくするしくみ

骨を丈夫に保つには、カルシウムを腸から吸収する必要があります。吸収を助けるのが「活性型ビタミンD」です。ビタミンDは通常腎臓で活性化されます。

腎機能の低下による骨の変化
  1. 腎機能の低下で活性化がうまく行われなくなる
  2. カルシウムの吸収量が減る
  3. 血液中のカルシウムが不足
  4. 体は濃度を一定に保とうとして副甲状腺ホルモンを分泌
  5. 骨の中に蓄えられたカルシウムを溶かして血液中に補充

骨が溶けるとリンも上昇し、リンの増加によってさらに副甲状腺ホルモンを刺激するという悪循環に陥ります。

本来、骨は代謝回転という「骨形成(新しい骨を作る)」と「骨吸収(古い骨を溶かす)」のサイクルのバランスで成り立っています。

腎機能が低下するとバランスが崩れ、骨がもろくなっていくと考えられるでしょう。

骨折が寝たきりや入院長期化につながりやすいわけ

透析患者にとって骨折は、長期入院を招くかもしれません。特に大腿骨(太もものつけ根)の骨折は、そのまま寝たきりや要介護となるおそれもあります。

入院中は体を動かす機会が大きく減るため、もともと低下しがちな筋力がさらに落ちていきます。筋力が落ちている状態が続くと、骨折が治っても歩行困難に陥ります。自宅での生活に戻れないままになることも少なくありません。

加えて、入院中も透析は週3回のペースで続ける必要があります。骨折と透析双方とも、体への負荷が重なるため、回復をさらに長引かせる要因になり得ます

透析患者の骨折リスクをさらに高める要因

透析患者の骨折リスクをさらに高める要因

腎機能の低下による骨へのダメージは、透析を受けているすべての方に共通しているといってよいでしょう。また透析患者の方は、骨折の大きな原因とされる転倒のリスクもより大きいとされています。

転倒リスクが高まる要因
リスク要因症状・疾患
加齢に関するもの移動能力低下
歩行困難
多剤服用 など
腎機能低下の原因疾患糖尿病
末梢血管疾患 など
血液透析治療に関するもの透析後の血圧低下
ふらつき など

運動療法なども転倒防止に役立つとされており、対策として自分の状況を把握することが予防の出発点になります。

骨密度の低下だけでなく骨の質も変わる

骨密度の検査で問題なかった透析患者の方でも、骨折のリスクが高い場合があります。日本透析医会によると、骨の強度は骨密度が約70%、骨の質が約30%を占めるとされており、骨密度の数値だけではリスクを判断できません。

糖尿病性腎症が原因で透析になった方は、骨の代謝回転が抑制されることが多いです。そのため骨質の劣化や骨の微小ダメージ蓄積などによって骨折率の上昇が見られます。

骨の内部構造や骨を構成するたんぱく質の質が低下しやすいとされています。骨密度が正常範囲内でも、骨の内側がもろくなっているケースがあることを知っておきましょう。

透析後のふらつきや筋力低下による転倒のしやすさ

見落とされがちなのが、転倒を起こしやすい状態になる点です。透析では血液中の余分な水分を一気に除去するため、透析後は血圧が下がりやすくなります。

帰宅時の立ち上がりや階段、夜間にトイレへ向かうときなど、ふらつきが生じやすい場面は日常の中に潜んでいます。

加えて、透析患者では食事制限による低栄養や運動不足から筋肉量・筋力が低下する「サルコペニア」の状態に陥りやすいことが知られています。サルコペニアはバランス感覚の低下や歩行の不安定さにつながり、転倒のリスクをさらに高めます。

透析患者の骨はすでに内部からもろくなっています。そこに転倒という外からの衝撃が加われば、ほんの小さな転倒でも骨折に直結しやすくなります。

骨折を避けるために日常生活でできること

透析患者の骨折を予防する観点から、普段の生活では食事と運動が重要とされています。

透析患者はリンやカリウムの摂取制限があり、体力面でも個人差があります。そのため、一般的な骨粗鬆症の予防策をそのまま当てはめられません。

透析ならではの制約を前提とした上で、日常の中で無理なく続けられる具体的な行動を紹介します。

カルシウムとリンのバランスを意識した食事の工夫

  • リンを増やしすぎない
  • カルシウムが不足しない

透析では体内にリンが蓄積しやすく、リンが増えると骨からカルシウムが溶け出す悪循環が起こります。バランスを意識して食事を摂りましょう。

加工食品、ハムなどには無機リンが多く含まれており、腸からの吸収率が高いため控えるようにしましょう。

またカルシウムが不足してはいけませんが、カルシウムが豊富な乳製品はリンも高いのです。普通の牛乳を飲み過ぎるのは避けてください。リンを低く抑えつつカルシウムを補える低リンミルクなどもあります。

塩分の過剰摂取がカルシウムの排出を促すことも知られています。透析患者には塩分制限がある方がほとんどですが、骨の健康という観点からも制限を守りましょう。

個々の状態によって適切な量は異なるため、詳細は担当の管理栄養士に確認してください。

筋力と骨を保つための無理のない運動の続け方

食事と同じく日常でできる対策が運動です。骨は歩くなどの動作で適度に重力がかかって形成が促されます。

逆に安静が続くと骨の密度は落ちやすく、筋力の低下とともに転倒リスクも高まります。

透析患者が取り組みやすい運動としては、非透析日に無理なくできるウォーキング程度の負荷のものを取り入れましょう。また、透析中の併用療法として下肢エクササイズを取り入れている医療機関もあります。

万が一骨折した場合、透析患者は入院・手術リスクが高いため、流れを把握しておくと安心です。

通院で骨折リスクを把握し手術を避けるための管理方法

定期的な通院を、骨の状態を管理する機会とする方法もあります。骨折リスクは自覚症状に乏しい方も多く、検査の数値を見て初めて状態がわかるケースも少なくありません。

透析患者は週3回の通院をただ透析を受けるだけの時間にせず、骨密度検査の結果や血液検査の数値を担当医と確認する場として活用しましょう。

結果として骨折や手術を遠ざけるための管理につながります。

骨密度検査と血液検査で骨の状態を確認する

骨折リスクの客観的な把握には、骨密度検査と血液検査の両方を活用します。骨密度検査に加え、代謝回転(骨が作られる速さと壊れる速さのバランス)の状態を骨代謝マーカーで検査する必要があります。

継続的な検査は異常の兆候を早く捉え、骨折に至る前に対応できる状態につながります。

手術を避けるために担当医と確認しておきたいこと

骨折した部位や程度によっては手術が必要になりますが、透析患者の方は合併症を抱えるケースも多いです。そのため、体調が原因で手術を実行できないケースもあります。

骨折を起こす前に対処できるかどうかが、その後の生活を大きく左右します。検査の数値をもとに、担当医と治療の方向性を確認しておくとよいでしょう。

活性型ビタミンD製剤による副甲状腺ホルモンの調整や、骨密度を高める薬の使用などが担当医の判断のもと検討される場合があります。

また、転倒しやすい状況(透析後のふらつきなど)について、担当医に定期的に伝えておくと、服薬内容の見直しや生活指導のきっかけになる場合があります。